少女展爛会シナリオ「春を、この手に」

春です。
雪は解け、寒さは緩み、日差しは柔らかく、芽は膨みます。

ここにあるのは一本の大桜。
つぼみ膨らみ、ほどけ始める頃、
春風に誘われ棲み処を出、少女達は今その下へ――

概要

これは少女趣味と人間関係のもつれに耽溺するTRPG少女展爛会用の初期作成PC2〜3人向けシナリオです。
少女展爛会について詳しく知りたい方は「少女展爛会(C)SimpleCrafts(こぎつね)」をどうぞ。
このシナリオは「春」をテーマに、ハートフル、ロマンティック、ルナティックのどのオーでの雰囲気にも転がせる受けの広さを意識して作成しています。その分シナリオの取り回しに臨機応変さが求められるので、GMは少女展爛会の経験があったほうがいいでしょう。もし初心者向けのシナリオを探しているのであれば「少女展爛会シナリオ「塀の上からおちるの、なーんだ?」 - Vacant Lot」をおすすめします。
このシナリオはルールブックで推奨されている「ソナタ形式」のシナリオです。以下、二人のNPC、舞台、提示部、展開部、再現部、コーダとシナリオの内容を記述します。

ジョルジーヌ(ジーナ)

9つ程度の金髪碧眼の女の子。ひらひらのドレスを身にまとい、編みこんでまとめた髪の上には真っ赤な小さなハットを載せているのが常です。
性格はプライドが高く、意地っ張り。その一方で臆病で人見知り、そのくせ寂しがりだったりもします。プライドゆえに自分の弱さを認められない彼女は、それを隠すためにことさらわがままに高飛車に振舞わずにはいられません。それは、すでに自分の弱みを知られた相手でも同じことです。けれども、なかなか尻尾は隠しきれない様子。彼女の態度を良く見ていれば、端々から彼女の本心をうかがい知ることが出来るでしょう。
ポルテは彼女のわがままに文句を言わずに付き合ってくれるいい従者だと思っています。時々子ども扱いすることと、寝物語に怖い話をしようとするのが欠点なのですが。

データ
クラス/タイプ/オーデ
プリンセス/グレーテル/ハートフル
世界の部品
コロニアル/出し抜く悦楽/上に立つ快感
支配 従順 打算 純真 表現 好意 悪意 先制
4 2 5 3 1 2 3 5 2
特技
計算ずく(Apr/3)/突き飛ばせ!(Xtr/6)/全てを受け止める微笑(Swy/3)/くすくす(Xtr/1)
アイテム
ハット[支打]/ガーリッシュ(A)[打打]/(お化粧品[表打])*1
関係

彼女は主従の上に立つ関係を求めます。

  • ポルテ/主従/上攻
  • ポルテ/庇護/下受

ポルテ

13程度のブルネットに、灰色の瞳の少女。背中まで伸ばした髪をゆるく三つ編みにして、落ち着いた秋色の服の上にエプロンをつけています。
彼女は誰に対しても人あたりよく、控えめな態度で接します。
実は彼女は「楽しい」ということがどういうことなのか、いまひとつわかっていません。ほかの少女たちとともに時を過ごしても、またこのような機会を得たいという感情が湧いたことがないのです。そのために彼女は「やりたいこと」を他人の中に求めます。そして、やりたいことがはっきりしている少女と行動をともにして、相手のやりたいことを自分のやりたいこととして振舞うのです。
そんな彼女は怖い話やうわさ、いわゆる怪談を集めています。求められれば語りもします。しかし彼女はむしろ怖がりです。聞くときの表情は硬く、語るときの口調は訥々として、まるで怪談が好きなようには見えません。もしかしたら彼女は楽しさを共有できないことを、怖さを共感することで代わりにしようとしているのかもしれません。
ジョルジーヌは彼女にとって適度にわがままな一緒に居て楽な相手で、また、面倒を見るべき妹のような存在でもあります。

データ
クラス/タイプ/オーデ
ペット/シンデレラ/ルナティック
世界の部品
献身の成果/あの日の宝物/ちくりと刺さる宝物
支配 従順 打算 純真 表現 好意 悪意 先制
1 6 2 2 5 3 4 3 3
特技
尻馬(Xtr/4)/忍耐(Rep/3)/妬み(Rep/4)/取り残され(Itv/4)
アイテム
エプロン[従従]/トランクバスケット(R)[表従]/アメニティグッズ(R)[純従]
関係

彼女は従属か義務を負う関係を求めます

  • ジョルジーヌ/主従/下受
  • ジョルジーヌ/庇護/上攻
  • ほか「受」の関係2つ*2

舞台「大桜」

小高い丘の上に、一本の桜が生えています。
少女が5人集まって輪になっても周りを囲めないほどの立派な樹です。
屋敷に、桜はあまり見られません。なのでこの桜は「大桜」と、ただ呼ばれています。
珍しさも手伝って、春の満開の時期には周りで花見に興じる少女達で賑やかです。
この桜、春には見事に花を咲かせますが、それ以外の季節には緑一つなくまるで枯れ木のようでしかありません。
それを不気味に思って近寄るのを避ける少女もいるとか。

こんな噂があります。
「大桜の根元には、ある少女の亡骸が埋まっている。その血を吸っているから大桜は薄紅の花を咲かせるのだ」

こんな噂があります。
「春でもないのに大桜が咲いたときは、誰かが根元に埋められたのだ。その証拠に根元に掘り返された跡が見つかるはず」

こんな噂があります。
「どんなに花がきれいでも、大桜の枝を持ち帰ってはならない。大桜の怒りをかって、根元に埋められてしまうから」

提示部

出来事表
春/昼下がり/庭園

PC達は、寒さ緩んだ陽気に誘われ、大桜の下に集まります。桜はようやくぽつぽつほどけたつぼみは見られますが、花盛りまではまだもう少し。春は出会いの季節。PC達はすでに顔見知りかもしれませんし、初対面かもしれません。
彼女たちがお互いを認識し、一通り会話をしたら*3、ジョルジーヌが現れます。
年の頃は10に届かないくらい、フリルでひらひらのワンピースを着て、編み込まれた金髪はアップにまとめられています。そして、その上にちょこんと可愛らしい真っ赤なトップハットが載っていておしゃれな感じ。視線を大桜にあげて、息を弾ませて、駆けてきます。
彼女はPC達に気づくと驚いたように足を止め、手の届かない距離以上には近寄ってきません。表情は硬く、何か言いたげ、走ってズレたハットを気にしつつ、PC達をにらみつけます。

ここで、ショウアップを始めます。

ジョルジーヌは不機嫌さと敵意をまとっていますが、その隙間からは怯えがちらちら見え隠れします。誇り高き人見知りの彼女は、まだ自分の弱さを隠すにはおさなすぎるのです。彼女は悪意に対しては頑なですが、好意に対しては最低限の礼儀は尽くそうとします。たとえば名乗られたら、名乗り返すとか。

1ラウンド目が終わったところで、ショウアップを切り上げます。PC達が彼女を構いたくなってくれれば、提示部は成功です。

展開部

出来事表
春/昼下がり/庭園
ポルテの登場

ここでポルテが現れます。

ジーナ、置いていくなんてひどいわ」

彼女を見るとジョルジーヌは一瞬ほっとしたそぶりを見せますが、すぐに彼女をなじります。

「ポルテが遅いのが悪いのよ。おかげで邪魔が入ったわ!」

ポルテはジョルジーヌよりはやや年かさ、14くらいの少女です。秋色のシックな衣装に身を包み、緩くウェーブしたブルネットを三つ編みにして背中に垂らしています。
PC達が声などかけてくるようならポルテはさりげなくジョルジーヌとPCの10歩の間に入り、相手をします。ポルテはPC達に対して友好的相手をします。
ジョルジーヌはPCと仲良くするポルテにかんしゃくを起こして彼女の三つ編みをリードのように引っ張ったり、します。

大桜に来たわけ

二人が大桜に来たのは、ジョルジーヌが理由も言わずにポルテをつれてここまで来たからのようです。ジョルジーヌはなぜ大桜に来たのかその理由を問われたなら、思い出したように、 

「そうだ! ポルテが来たからにはお前たちの相手をしている場合じゃないんだった」

と、ポルテを大桜の根元まで引っ張っていきます。そして彼女を木の幹に押しつけるように立たせると、おもむろにその背中をよじ登り始めます。手始めにその三つ編みを手がかりにして。
ジョルジーヌの視線の先には低いところに張り出して伸びた桜の枝。どうやら彼女はそれを手折ろうと、しているようです。

大桜の怪談

ジョルジーヌを乗せて身動きの取れないポルテですが、顔を幹に押しつける格好になりながらも、PCに話しかけてきます。
曰く、

「桜の色がこんな色である理由を知っているか」
とか、

「春ではない季節に咲いた大桜を見たことがあるか」
とか、

「桜の根元に何が埋まっているか知っているか」
とか。

そう、彼女はのどかな陽気の中、大桜にまつわる怪談話を始めようとするのです。PC達は怪談について知っていてもいいし、知らなくても構いません。PLが創作した話につきあうのもいいでしょう。判定をさせて、成功したら知っていることにする、というのもありです。

『どんなに花がきれいでも、大桜の枝を持ち帰ってはならない。大桜の怒りをかって、根元に埋められてしまうから』

という噂が話が及んだところで、桜の枝に伸ばされたジョルジーヌの腕はぴたりと止まります。というところで、展開部は終わりです。
 
もしプレイヤーたちが怪談に乗り気でなければ、怪談話はさらっと流してさっさと切り上げてしまいましょう。

再現部

桜の枝を手に入れるには「コンクルージョン」が必要であることを、PCに説明します。ジーナが桜の枝をほしがるのは、前の春に見た桜があまりにきれいで、自分だけの桜が欲しくなったから、です。

ジョルジーヌとポルテの行動指針

二人の役割分担がはっきりしているコンビです。
ジョルジーヌの特技は攻撃的。「くすくす」で積極的にテンションを確保し、「全てを受け止める微笑」でオーデを確保。そして「計算ずく」による高いインパクトで相手を陥落させに行きます。
ただし、達成値が上がらないのが玉に瑕。でも心配は要りません。そこはポルテが「尻馬」でカバーしてくれます。
ポルテは完全なサポート形。「尻馬」に必要なテンションと相談しつつ、「忍耐」で耐え、「取り残され」でしのぎます。自身は積極的に動くことはできません。時にはテンションを確保するために誘受けをもらいにアプローチすることも考えましょう。
そのため、ルナティックのオーデにポルテはあまりこだわりません。むしろジョルジーヌと「取り残され」のためにハートフルを上げることもあるかもしれません。
「妬み」はいざという時の一刺しです。「忍耐」で耐えるだけだと思っている相手を驚かせるといいでしょう。

コンクルージョン

ジョルジーヌがポルテがコンクルージョンを起こした場合、桜の枝を手に入れます。
桜を手折ったとき、風がやみます。目に映るものはやけに色あせ、薄暗く感じられます。周りは静かで、大桜だけが辺りから取り残されたようです。少女達の心に禁忌を犯したという罪悪感が生まれます。カタストロフのオーデを+4します。
もし+4では意味がないと感じるのであれば+7してもいいでしょう。次のラウンドの終わりまでカタストロフのオーデが7のままであれば、みんな「いなくなる」のです。

ポイント

このシナリオのポイントは「桜や怪談にこだわりすぎないこと」です。
怪談はルナティックのキャラのために用意しているだけですし、桜を手折る必要も全くありません。そんなことより大事なことは、ジョルジーヌが意地を張ることです。初めて出会うPCに怯えていること、年上のポルテに面倒を見られていること、怪談が怖いこと……
プライドだけは一人前のジョルジーヌはそういったことを全て認めたくないのです。認めない代わりに、まだおさない彼女は周りに強く当たります。そんな彼女をPC達がどう料理するのか。それこそがこのシナリオの主題です。

*1:懐が足りないため使うことが出来ません。

*2:もしPCが2人なら、この関係をなくして「従順」と「表現」の資質を下げたほうがいいでしょう

*3:一通りというタイミングは微妙ですが、PC達が打ち解けて、プレイヤーが何かを始めようとするか、何をするか迷い始めた辺り、といったところです。