かにしの感想まとめ

何となくかにしののレビューを見て回りました。
プレイ当時は感想を文章にしようという気がなかったのですが、最近宗旨替えをしたので自分の感想をこの機会にまとめてみようと思います。
すでにプレイから一年近く経過しているのでかなりうろ覚えですが、その辺りはご容赦。
レビューを見て回った結果、本校の方が好きだという意見がほとんどでした。そうでなくとも甲乙付けがたいくらいという表現までしかないですね。
自分はキャラクタに関しては「栖香>みやび=美綺>梓乃=邑那>殿子」で、シナリオは「邑那>みやび>栖香=美綺>梓乃>殿子」という評価。
見ての通り分校の方を支持する人間なので、分校支持の見あたらなさはちょっとしょんぼり。もっとも自分がマイノリティなのは重々自覚してます。

本校編について

本校が肌に合わない一番の理由は彼らが特別すぎる、理想的すぎることです。
本校における司は新任にもかかわらずすでに完成された理想的な教師です。
学園という舞台にあって、本校で語られる物語はとても個人的です。そこには純化された「二人の世界」が展開しています。
シナリオは司とヒロインの二人の視点から進み、逆に言えば世界に他の視点は存在しなくなる。
その世界の狭さが私には面白くない。何より彼女たちが抱える対外的な問題が書き割りになってしまいます。
それを象徴するのが殿子ルートのラストだと思います。

みやびルートの評価が高いのはみやびが「理事長」であることが大きいです。
彼女は学園にあって本当に「特別」です。だからその特別に見いだされる司も特別であっていいのです。
あとリーダさんの存在も大きい。二人を見守る彼女の視点が「二人だけの世界」とその外側を繋いでいます。

世間一般では殿子は非常に評価が高いのですが、私は正直よく分からなかったり。
シナリオの評価が低いのは、私にとって彼女が最も輝くと信じた瞬間が描写されないばかりか決して訪れないものとなってしまったから。
実家との確執が殿子の抱える問題で、それに相対する心を殿子は司との出会いによって手に入れます。
その心でもって確執といかに立ち向かっていくかが殿子が真に羽ばたくときだと信じて疑いませんでした。
けれども、ラストでそれは完膚無きまでに否定されてしまったのが残念でなりません。
描かれないのは問題ありません。否定されてしまったのが問題なんです。
後純粋にお父さんと呼ばれても嬉しくないっていう。これは私の嗜好の問題ですけれど、殿子ルートが楽しめない一番の原因のような。
でも今やると意外と感想変わるかもしれません。

梓乃は抱える問題が彼女の内面にあるために「二人の世界」にさほど無理は感じませんでした。
シナリオ中の化け方はヒロインの中でも随一でしょうし、その辺かも非常に好ましいものです。
それだけに途中、いくつか感じたシナリオの違和感が惜しかった。
例えば完璧超人として描かれるはずの司がご都合的にあらぬ疑いを掛けられる所とか。
周りのキャラクター達が梓乃の話を聞くこともせずに無批判に嫌疑を掛けるのには非常にご都合主義を感じてしまいました。

で、最後に、本校をやっていると美崎の扱いがやるせないです。出てくるのはいいんですが、無神経なトラブルメーカーとして描かれるんですよね。
美崎はトラブルメーカーなのは確かですが、自覚的なトラブルメーカーだと思っているので薄っぺらに扱われるととても悲しい。
それ以外にも丸谷さんが本校側のヒロインも違和感なく配しているのに対して健速さんは端役を大事に出来ない人なのが見えてしまう所が多かったです。
その辺りが本校の評価を下げる一因になってます。

分校編について

本校編の司は完璧超人なのに対して分校編の司は良くも悪くも凡庸な新任教師。
本校編はヒロインと司が傷を埋め合っていく課程がシナリオのメインとなっている。
それに対して分校編はヒロインとの絡みはもちろんあるんだけれど、それと同じくらいに彼らの立つ舞台を描く役割も持たされている。
美崎はかにしのの世界のナビゲーターとして非常に秀逸だと思う。分校側のキャラで本校編にアクティブに顔を出しているのは美崎だけで、だからこそ美崎は本校・分校を区別しない「鳳華女学院」の裏舞台を愉快に案内してくれる。
栖香は世界が見えていない人間として美崎と対比されることで、逆説的に世界を描き出す。
常識にとらわれた栖香だからこそ、効果的に常識でとらわれたプレイヤーに世界のなんたるかを伝えることが出来るのだ。
そして邑那はその舞台を再構成する。彼女の存在によって善悪といった二元論で解釈できた舞台は相対化されてしまう。

分校編ではたくさんの生徒が出てくる。そしてそれぞれに問題を抱えている。さらにとりもなおさず魅力的だ。
これは司やヒロイン達が特別な存在ではないということを示している。
なにしろ鳳華女学院の教師の採用基準が彼女たちのパートナーとなることが意識されているのだ。
司のように学生と教師でカップルが出来ることは鳳華女学院では全く特別なことではない。奏と暁さんもそんな例の一つだし。
だから司に救われなかった彼女たちもそれぞれのパートナーを何らかの形で見つけ出すのかもしれない。
そんな物語は、是非ファンディスクで見てみたい。

分校編では司のトラウマが放置されている不満をよく見る。
実際明示的に触れられるのは美崎ルートだけだ。
おそらくは健速さんのために用意された舞台装置なのだろうなぁ。
確かに司は邑那と栖香ルートではヒロインの手によって救われることはない。
邑那は救われなければならないような人間を必要としないし、栖香は気づくことが出来るような子ではない。
でもその代わりに司は自分から、自分の欲望でもって相手を求める決断をそれぞれのルートで迫られていると思う。
確かにそんな決断一つでトラウマが無くなったりはしないかもしれない。けれど、トラウマの存在は決して無意味ではない。
あのプロローグと本校ルートを見れば司が救われて欲しいと感じるのは仕方ないのかもしれない。
けれど、本校に比べて舞台の広い分校編において司個人の問題は相対的に小さく、それは解決すべき問題ではなく司の行動に影響する一要素に過ぎないのだろう。